真っ暗な図書館、肝試し風の音楽会、ラジオから聴こえる音
2年前、鋳物工場で参加型でコンサートをつくるワークショップ「身体でつかまえる音」を企画した音楽家・浦裕幸さんと山口晋似郎さん。そのふたりと、この夏ふたたび、一風変わった音楽会「夏の夜に降る音の波」をつくりました。
メディアセブンの真下にある川口市立中央図書館が会場です。「えっ?物音がしたら利用者に迷惑なんじゃないの?」と思われた方、心配無用です。閉館後のだれもいなくなった図書館です。ひっそりと静まりかえり、本が整然とならぶ、どこか薄気味悪いロケーションだったので、夏の肝試し風の音楽会に仕立てました。
書架が立ち並ぶなかでの演奏だけでも十分トライアルなのに、くわえて、5本のミニFMのアンテナから音を出して楽曲を構成することに挑戦しました。
2本のアンテナを立てて、同じ周波数で音を発信すると、おおよそ中間点で受信する音が変わります。つまりは自分のいる地点からいちばん近いアンテナから発信される音が聴こえるのです。複数のアンテナを立てたときも同じく、アンテナとの距離で受信する電波が決まります。
この原理を活かそうとすると、イスにただ座って聴いてもらうのでは成立しませんから、自ずとラジオを片手に図書館内を動き回りながら聴くというかたちとなりました。
だから会場には足音と空調の音ぐらいしかしません。ひっそりと静まりかえった真っ暗な図書館を歩きながら、ラジオから聴こえてくる音を楽しむ(怖がる?)音楽会として構成されていきました。
ふたりが共演したこともある山口夏志郎さんと菅納賢人さんにも協力してもらい、1本1本のアンテナから出す音をつくります。
音だけで人を怖がらせるということはどういうことかをディスカッションをするなか、シチュエーションに埋め込まれることで、全身の感覚と過去の経験にリンクして「怖さ」を感じるのだろうという仮説がみえました。
その仮説をふまえて、各自が音をつくっていきます。オーディエンスが歩くルートのどこで自分の音が聞こえるのか、それは図書館のどこか、その場所から想起されるイメージとの関係は…。そういったことを考えながら、不思議な音がつくられていきます。
音が完成したら、いよいよ本番の音楽会を迎えます。
肝試し風という言葉に惹かれたのか、閉館後の図書館に興味をもったのか、たくさんの子どもたちがオーディエンスとして集まってくれました。
オーディエンスは、3人一組でラジオとちいさな灯りをもって、図書館に置いてある5つ札をあつめてこなければいけません。灯りで足元をたしかめながら一歩一歩進まないといけないほど暗く、なかには図書館に入るなり怖がって泣きじゃくる子もいたぐらい…。
それでも、街がピカピカに明るい最近の子どもたちは肝試しをやる機会などないらしく、楽しんでいました。
…と、文章を書き連ねても音は聴こえませんし、会場が暗すぎて写真でも様子が分からないので、ぜひ映像でご覧ください。百聞は一見にしかず。
CDCCASTでは、リハーサルの様子もご覧いただけます。