飯沢耕太郎さんと畠山直哉さんの対談がありました
「メディアセブンの写真学校」でお世話になっている飯沢耕太郎さん。去年末に新刊『写真的思考』(河出ブックス)を出版された記念トークショーを、青山ブックセンター本店にて、写真家の畠山直哉さんと対談をされました。
題して「写真的思考とはなにか」― ぼくは行けなかったのですが、写真学校に参加されている神田さんがレポートを書いてくださいました。
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非常に興味深いトークショーでした。
飯沢さんと畠山さんは、同じ大学の先輩後輩という間柄もあり、お世辞や、相手の意見に合わせるということも特になく、気軽な会話ながら「写真とは何か?」という深いテーマについてお互いに意見を述べ合っていました。
話のきっかけとなったのは『写真的思考』で取り上げた畠山さんの『A BIRD』という写真集です。
鉱山で石灰岩を採掘するために爆破する、その爆発を収めた「ブラスト」というシリーズがあり、130回目の「爆破」の連続写真が『A BIRD』という作品になりました。
『A BIRD』には、爆破する直前にたまたま居合わせた鳥が、爆発に遭遇し、爆風が過ぎ去ったあとまでフレームから外れることなく、連続写真の中で飛び続ける様子が撮影されています。
畠山さんは安全のため、カメラをセッティングした後に現場から離れ、写真に何が写っているかは、後日現像して初めて確認できたそうです。当然、鳥を含めて撮影するようにカメラをセッティングしたわけではなく…。
このドラマティックな写真は、本質的には誰の創作物なのか?
「現実世界を意志を持って切り取る」という行為をしていない写真は、その写真家の作品なのか、ということを畠山さんは問題提起され、飯沢さんはそれを「自然が与えた贈り物」という考え方で説明されていました。
さらに話は続き、海外のキュレーターに「A BIRD」を見せたところ、「この鳥は、フォトショップで合成したものですか?」と尋ねられたとのこと。
畠山さんがあまりの衝撃に10秒程度無言でいたところ、そのキュレーターが雰囲気を察して「フォトショップを使っていようが、使っていまいが、作品の質には変わらない」と話したそうです。
つまり、カメラで撮影した写真も、フォトショップで合成した画像も「見た目」が同じであれば作品としての質は同じという考えに、さらに驚かされたと畠山さんは語っていました。芸術作品としての写真画像の価値について、非常に深淵な問題まで話が及んだところでトークショーの時間も終了に近づき…。
1時間では到底語りきれないテーマでしたが、現代写真の第一線で活躍される方々が、銀塩からデジタルへ変わっていく流れの中で、現時点で「写真」の意味や価値をどのように捉えているのか、ほんの少しでも垣間見られたことが、非常に有意義なトークショーでした。
最後に畠山さんが話されたエピソード
「フォトショップを使って合成した写真ではない」と言うと、みんな嬉しそうな顔する。
そこに銀塩でもデジタルでも変わらない「人が写真に惹きつけられる理由」のヒントのひとつが隠されているように感じました。
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写真家と評論家の深い対話を分かりやすくまとめていただき、ありがたいです。
◎飯沢耕太郎『写真的思考』(河出ブックス)