KAI-YOU武田さんがきてくれました

『界遊』という文芸誌をご存じですか?
世界と遊ぶ文芸誌というキーワードで、2008年から発行されているミニコミ誌です。ただ、ミニコミ誌といっても同人誌とは異なり、自主流通ながらも都内大型書店などに置いてあるようなあたらしいメディアの形態 — ミドルパブリッシングといってもいいかもしれません — として地歩を固めてきました。
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今回のブラウジングトークセッションでは、その『界遊』をはじめとして、幅広いメディア活動を展開するKAI-YOU代表の武田俊さんに話を聞きました。


「小説のことは小説家にしかわからない」。『界遊』のはじまりは、高橋源一郎のこの発言でした。それに反発した武田さんたちは、自分たちの手に文芸をとり返そうと奮起したそうです。
その時点からメンバー全員が、自分の言論を遠く、ひろく届けたいという思いを持っていました。その思いから、二号目からは名のある書き手に臆せず原稿を依頼し、大手書店にも積極的に営業を行った結果、名物書店員のいるような新宿ジュンク堂などに置かれるようになりました。
そして、ミニコミ2.0を提唱し、あたらしいミドルパブリッシングの可能性を模索するようになります。ぼくが『界遊』や武田さんを知ったのも、この時期のことでした。
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その後、本を届けることを意識しはじめたところ、「いつもは本を読まない人にも手にとってもらいたい」と考えるようになり、三号目からは、ライブなどを織り交ぜたリリースパーティを行うようになったそうです。
文芸や音楽、芸術といった分野からさらにすすんで趣向が細分化した結果、ニッチな嗜好性をもったスモールコミュニティが相互に交わらないままに群生する現在の文化受容の状況を「島宇宙」という言葉で表現します。
武田さん率いるKAI-YOUの活動は、その「島宇宙」に点在する島々のなかで、文芸に近しいと思われるところにアプローチするものとなっているといえます。音楽を楽しむような軽やかな受容を提供するようなかたちで。
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武田さんの「コンテンツにとどまらず、体験をも届けるメディアをつくる」という考え方は、そのための戦術のようにも思えましたが、それは適切ではないのかもしれません。
文芸という大きな枠組がなくなった後、現在では本も音楽も映画もアニメもフラットに受容されるようになりました。そのような現代的な感性でもってメディア実践を展開する武田さんたちKAI-YOUからすれば、自分たちが楽しめる方法論を模索しているうちに行き着いたところのようにも思えました。
トークセッションのタイトルは「あらたな『出版』とメディアの可能性」と大上段に構えていたのですが、これからのKAI-YOUの活動がひとつの可能性を指し示しているのではないかと思えるような、トークセッションとなりました。

04. 6月 2011 by CDC STAFF
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